THE NETHERLANDS CHRONICLES 第5章|居間の中の宇宙
The Netherlands Chronicles – Chapter 5: The Universe in a Living Room
そして目的地、フラネカーへ。

ナールデンからアフスライトダイクを越え、オランダ北部のフリースランド州までやってきた。

フリースランドは、古くから天文学とも縁の深い土地である。そしてこの小さな街フラネカーには、現在も稼働している世界最古のプラネタリウムがある。
今回、フラネカーまでやってきた最大の目的は、まさにそれを見ることだった。
アイゼ・アイジンガー・プラネタリウム。
1774年、惑星直列をめぐって人々の間に不安が広がった。天体の動きによって地球に大きな災厄が起こるのではないか。そんな恐れが、当時の人々の心を揺さぶっていたという。
その不安を解きほぐすために、羊毛梳毛業を営みながら数学と天文学を独学していたアイゼ・アイジンガーは、自宅の居間に太陽系の動きを再現する装置を造り始めた。
これは、羊毛梳毛業を営んでいた工房を再現した展示である。
アイジンガーは、天文学だけを専門にしていた人物ではない。日々の仕事を持ち、生活の場を持ちながら、その一方で数学と天文学を学び、自宅の居間に宇宙を作ろうとした。


駆動の要となる時計仕掛けには時計職人の協力を得たものの、歯車をはじめとする多くの部品は自ら設計し、手作りした。そして1781年、今でいうプラネタリウムを、自宅の居間に完成させたのである。
それが今、目の前にある。
川沿いに民家が立ち並ぶ静かな通り。その一角に、アイゼ・アイジンガー・プラネタリウムは佇んでいる。

建物の外観は、特別に大きいわけでも、派手なわけでもない。入口に掲げられた「PLANETARIUM」の文字がなければ、知らずに通り過ぎてしまいそうなほどである。
すぐそばにはアイゼ・アイジンガーのポートレイトを飾った店もある。

そして中へ入る。
レセプションのそばには、小さな売店が設けられている。そこから先へ歩を進めると、宇宙や天文学に関する展示が続いていく。


展示室を抜け、いよいよプラネタリウムへ。

部屋に入ると、まず目に飛び込んでくるのは青い天井である。その天井に、太陽系の模型が吊り下げられている。太陽、惑星、そしてそれぞれの軌道。居間の天井全体が、そのまま宇宙の模型になっている。

さらに壁面には、日の出、日の入り、月食、日食などを示すさまざまな表示が並ぶ。単なる模型ではなく、天体の動きを読み解くための装置として、この空間全体が作られていることがわかる。

一方で、ここがかつて普通の住まいの居間であったことを示す空間も残されている。
生活の場であった部屋の天井に、宇宙が広がっている。
そして、狭く急な階段を、手すりを頼りに上っていく。
その先で見ることができるのが、このプラネタリウムの心臓部である。

屋根裏のような空間には、見事なまでの木製の歯車が連なっている。天井の下に広がっていた太陽系の動きは、この複雑な歯車機構によって、今も静かに動かされている。

まさに天文学であり、物理学であり、そして時計学でもある。
ただし、ここでいう時計学とは、特定のブランドや、特定の時計を思い浮かべるものではない。もっと根源的な意味での時計である。
時計とは、もともと空を見ることから始まったものだと思う。太陽の動き、月の満ち欠け、惑星や星の運行。人は空を見上げ、その規則性を読み取り、やがてそれを地上の暮らしの中で測ろうとした。
英語の watch という言葉にも、「見る」「見守る」という意味がある。時を知ることは、空を見つめることから始まった。その意味で、この小さな居間に造られたプラネタリウムには、時計の本質に近いものが宿っているように感じられた。

そして、ここで思い出すのがクリスティアーン・ホイヘンスである。
現代の機械式時計と切っても切り離せない大発明、ひげゼンマイ。その誕生から350年という節目に、あらためてホイヘンスという人物を思う。彼は時計の精度を飛躍的に高めただけでなく、土星の輪を解き明かした天文学者でもあった。
時を測ることと、宇宙を理解すること。そのふたつは、決して別々のものではない。
このプラネタリウムの屋根裏に連なる木製の歯車を見ていると、そのことが静かに伝わってくる。
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