Ayçiçekleri Artık Bana Bakmıyor|ひまわりは、もう私を見ていない
イズミール
イズミールでは、私のことを知らない人の方が少なかった。
若い頃から、よく見られた。
市場でも、海沿いでも、カフェでも。
歩けば誰かが振り返った。
男の人は分かりやすかった。
女の人は、もう少し複雑だった。
「あの歳で、まだあんな服を着て」
そんな声も、聞こえていた。
でも、別に構わなかった。
見たければ見ればいい。
これが、いつもの私なのだから。
私はずっと、そうやって生きてきた。
海の見える家で、長く暮らした。
朝は窓を開けた。
チャイを淹れた。
洗濯物を干した。
夕方にはエーゲ海の光を見た。
何も壊れてはいなかった。
たぶん、そこが一番難しかった。
喧嘩ばかりしていたわけでもない。
嫌いになったわけでもない。
むしろ、好きだった。
今でもきっと、好きだと思う。
でも、ある時から考えるようになった。
「このまま、私はここで終わるのかしら」
妻として。
誰かの世話をして。
誰かの予定に合わせて。
誰かの忘れ物を気にして。
そうやって、気づいたら全部終わっているのかしら。
別に不幸ではなかった。
だからこそ、自分でも困った。
不幸なら、もっと簡単だったのに。
ある朝、私は何も言わずに家を出た。
列車
荷物は少なかった。
必要な服。
化粧品。
お気に入りの香水。
それから、一番好きなピンヒール。
駅までの道を、私はいつも通り歩いた。
誰かが振り返った。
別の誰かも見ていた。
でも、その日は少し違った。
私はもう、イズミールのいつもの私ではなかった。
列車に乗った。
窓際の席に座った。
バッグを膝の上に置いた。
何も考えないようにした。
でも列車が動き始めた瞬間、胸の奥が痛くなった。
「ああ」
「本当に出てきてしまったのね」
もう戻れない。
いや。
戻らない。
そう決めたのだから。
少しして、あなたのことを考えた。
「今日は忘れ物してないかしら」
「薬、ちゃんと飲んだかしら」
「また窓を開けたまま出かけてないかしら」
「夕飯、どうするの」
「何でも適当に済ませるんでしょうね」
まったく。
そういうところ、昔から変わらない。
気づいたら、私は泣いていた。
声は出なかった。
ただ、涙だけが止まらなかった。
「本当に困る人ね」
「明日からは、世話してくれる人がいないのよ」
「それでも頑張ってね」
「何なら、いい人を見つけてもいいのよ」
「ちゃんとあなたのことを見てくれる人」
「忘れ物にも気づいてくれる人」
「薬も忘れず出してくれる人」
私はもう、そこにはいないのだから。
「忘れていいのよ」
「探さないでね」
「私はもういないの」
ひまわり
車窓の向こうに、ひまわり畑が広がった。
一面の黄色。
どこまでも、どこまでも続いていた。
きれいだった。
本当にきれいだった。
なのに。
どの花も、私の方を向いていなかった。
みんな、そっぽを向いていた。
「一輪くらい、こっちを見てくれてもいいじゃない」
そう思った。
こんな時に。
こんな景色を見るなんて。
私はあなたのことを嫌いになったわけじゃないのに。
むしろ、好きなのに。
それでも私は出てきたのに。
ひまわりたちは、そんな私を見ようともしなかった。
その瞬間、また涙が溢れた。
今度は、少し声が出た。
私は窓の方を向いたまま、泣いた。
しばらくして、少し笑った。
「ああ」
「そういうことなのね」
「ひまわりは、もう私を見てくれない」
でも、いいわ。
見てくれなくても。
これは私が選んだ道なのだから。
「もう探さなくていいのよ」
何が悪かったのか。
どこですれ違ったのか。
もっと何かできたんじゃないか。
そんなこと、もう考えなくていい。
「私は、これから私の人生を生きるの」
「だから私はアンカラに行くの」
アンカラ
アンカラでは、しばらくホテルに泊まった。
朝、一人でチャイを飲んだ。
最初は妙な気分だった。
誰かの分を用意しなくていい。
誰かの好みを気にしなくていい。
自分が飲みたい時に飲めばいい。
昼になると、街を歩いた。
好きな店に入った。
食べたいものを食べた。
疲れたら戻った。
それだけなのに、不思議だった。
一日が全部、自分のものだった。
でも、アンカラにいても、まだ何か足りなかった。
私はもっと遠くへ行ってみたくなった。
海のない場所へ。
イズミールの匂いがしないところへ。
シヴァス。
そして、ザラ。
どうしてそこなのかは、自分でも分からなかった。
ただ、行ってみたかった。
ザラ
ザラに着いた時、私は少し笑った。
ここでも、見られた。
やっぱりね。
体の線が出るドレス。
高いヒール。
きちんと整えた髪。
深い色の口紅。
みんな、珍しそうに見ていた。
ある日、食堂のおばさんが言った。
「その靴で、ここを歩くの?」
「歩けるわ」
「転んでも知らないよ」
「その時は笑ってちょうだい」
おばさんは大きな声で笑った。
次の日から、何も言わなくてもチャイが出てきた。
市場では、年配の女の人に聞かれた。
「イズミールから来たの?」
「そうよ」
「海があるところね」
「ええ」
「ここ、退屈でしょう」
私は少し考えた。
「まだ決めてないわ」
その人は笑った。
「そのうち分かるよ」
パン屋では、若い女の子が私のドレスを見ていた。
「きれい」
「ありがとう」
「私も、いつかそんな服を着てみたい」
私は言った。
「いつかじゃなくて、着たい日に着ればいいのよ」
女の子は少し驚いて、それから笑った。
私は、自分でも少し驚いた。
そんなことを言うようになったのね。
私は私
朝起きる時間も、自分で決めた。
何を食べるかも。
どこを歩くかも。
今日はドレスにしよう。
今日はヒールにしよう。
今日は何もしないで、チャイだけ飲んでいよう。
今日は一人で夜の店に入ってみよう。
誰にも相談しなくていい。
誰にも許可を取らなくていい。
ここでは、誰も私を知らない。
誰も、私がどんな妻だったか知らない。
誰も、イズミールで何と呼ばれていたか知らない。
それが、だんだん心地よくなった。
私は、誰かの妻ではなくなったわけではない。
でも、それだけではなくなった。
夜、鏡の前に立った。
少し年を取った。
それでも、まだ悪くない。
私は口紅を引き直した。
髪を整えた。
ピンヒールを履いた。
「どこに行っても、私は私ね」
その夜、町の小さな店から音楽が聞こえてきた。
ブラス。
ストリングス。
少し懐かしいトルコ・ポップ。
私は中に入った。
また誰かが見た。
また誰かが振り返った。
でも、もうどうでもよかった。
見たければ見ればいい。
これが私だから。
席に着いて、飲み物を頼んだ。
音楽を聴いた。
少しして、あなたのことを思い出した。
「元気かしら」
「ちゃんと食べてるかしら」
「また何か忘れてないかしら」
でも、私は笑った。
「もう、私が心配しなくていいのよ」
きっと大丈夫。
あなたはあなたでやっていく。
私は私でやっていく。
窓の外には、夜のアナトリアが広がっていた。
海はなかった。
でも、空は大きかった。
私はグラスを持ち上げた。
誰に向けるでもなく。
「ごめんなさい」
少しだけ間を置いた。
「でも、これでよかったの」
今度は、自分に言い聞かせたわけではなかった。
本当に、そう思った。

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